● 物語 story
ど しゃぶりの雨の中、地面を嗅ぎながら前へ前へと進むシェパードたちに交じって、ラブラドールレトリバーのエルフもまっすぐ進んでいく。エルフが立ち止まり、訓練士の望月遼一(遠藤憲一)を見上げる。信頼したようにうなずく望月。警察の捜索隊にあきらめの空気が流れる中、黙って先を進むエルフと望月。そして・・・遂に行方不明になって泣いている女の子を見つけた。
 居間のテレビで地元のニュース映像を見ていた8才の杏子は、救出された女の子と望月、エルフの姿を見て母(浅田美代子)に叫んだ。
「おとうちゃんとエルフや!うちな、大きいなったらおとうちゃんみたいになる!」

 それから、10年後。一人の少女が、番場警察犬訓練所の門をくぐる。望月杏子(夏帆)だ。自慢だった父は既に他界したが、父のような訓練士になろうと期待で胸が一杯!訓練所の母屋に住み込み、新しい朝を迎える・・・はずだったが、早速一日目から寝坊。所長の番場晴二朗(寺脇康文)に叩き起こされた。一緒に住んでいる、晴二朗の妻・詩子(戸田菜穂)に笑われ、2人の子供である圭太(広田亮平)と新奈(大野百花)には、いつまでもつか、賭けの対象にされる始末である。

見習い訓練士としての一日が始まった。先輩の訓練士・田代渉(山本裕典)に教えてもらいつつ、まずは、犬出しである。犬出しとは、何頭かいる犬を排便所で用便させ、犬房の掃除をすること。そしてその間に、犬房の新聞紙を取り換え、犬たちの餌やり、そしてゴミ捨て、臭気選別の布の選択、事務所掃除、家事手伝い、そしてまた犬出し・・・朝5時に起きて、寝るのは夜中!あれ?犬の訓練は?私の担当犬は?などと思いつつ、所長は、まずは犬のクソに慣れること、と出て行ってしまった。手際よく犬出しを続ける渉の横で、杏子は、ふと、奥の犬房に目を留めた。 エルフと同じ、きなこ色の子犬・・・。 そこには、まだ生まれて間もない小さなラブラドールレトリバーがうずくまっていた。体が弱く、餌もよく食べられない・・・。力なく横たわる子犬が心配でならない杏子は、仕事を終えた後、夜通しなで続けた。「きな子、元気になって一緒に遊ぼな」と呼びかけながら。
翌 朝、犬房の床で眠ってしまった杏子の目の前には、自ら餌を食べる「きな子」の姿があった。安心する杏子の横で、晴二朗は、ここに置いておけるのは警察犬にする犬だけ、この子には無理だ、と杏子に告げた。 「私が、きな子を警察犬にします!」思わず口走る杏子。
 見習い警察犬「きな子」と見習い訓練士「杏子」。新奈に、「きなことあんこ」の漫才コンビと笑われながらも、杏子は絶対にあきらめるつもりはなかった。そして、それに答えるように杏子を見つめるきな子。
杏子は、3時には起きて、いつもの仕事をこなし、夜になると幼いきな子との訓練を始める。まずは、自分の左を歩く訓練から。しかし、きな子は訓練所の隅にあるボールを見つけて走っていく。それを追う杏子。やがて遊んでいるようにじゃれあう二人を、事務所から見つめる晴二朗。

2年目の春―。渉が訓練しているシェパードのジャックと一緒に、きな子と訓練をしている杏子。ジャックが平均台、ハードルと障害物を楽々と超えていくのに対し、きな子は、平均台から落ちるわ、ハードルも跳ばずに潜るわ、あいかわらず前途多難である。臭気訓練では選別台に行かずに、台所のホットケーキの匂いに反応しておねだり・・・だが、楽しそうなきな子に厳しく接することが出来ない杏子に、晴二朗はペットではなく警察犬にしなければ、お前は訓練士にならなければならないと厳しくしかった。
そんな頃、犬の訓練計画や、癖などを記した日記を杏子に残し、渉は誰にも告げずに訓練所を去ってしまう。実家の製麺所を継がなければならなくなったのだ。誰よりも訓練士になりたかった渉の気持ちを察し、杏子は訓練所の犬たちの世話を懸命に行う。そんな杏子の様子を見ていた晴二朗は、杏子に数ヵ月後に開催される訓練発表会に出るように告げる。渉の残したノートを元に、きな子の訓練計画を練る杏子。

 訓練会当日、警察署長の桜庭(平田満)や番場一家の見守る中、緊張と期待の面持ちでハードル競技へと進む。シェパードたちが華麗にハードルを飛び越している。いよいよきな子と杏子の出番だ。一緒に駈け出した1頭と1人は、目の前に迫るハードルをジャンプするも、きな子は前足を引っかけて、顔面から地面に落下!リードを握っていた杏子もつられて頭からズッコケたのだった・・・。
その夜、テレビでその模様が放送され、すっかり落ち込む杏子。きな子のせいにする杏子を、晴二朗は一喝し、訓練所に連れ出す。ハードルを前にジャックと飛んでみろと命じる晴二朗。渉とは飛べたジャックが、杏子とは全く飛ぼうとしない。晴二朗が一緒だと、ジャックは見事にハードルを越えた。「未熟なのはお前だ。そんな奴にきな子を任せられるか!」 傍らに佇むきな子を見つめ、杏子は宣言した。「・・・2ヶ月後の試験、きな子を絶対合格させます」
訓 練会以来、すっかり「ずっこけ見習い警察犬」として有名になったきな子。警察署の交通安全イベント犬としても声が掛かるようになった。しかし、杏子は以前よりもっと厳しく訓練を重ねていった。全てはきな子を警察犬にするために。

警察犬試験の日。杏子ときな子は臭気選別に臨む。「よし、探せ!」 懸命に臭いを探るきな子だったが、結果4回中4回とも不正解。無言で立ち去る杏子に、後を追うきな子。足にすり寄るきな子に、杏子はなんでエルフみたいに分かってくれないのか、と涙が流れる。
その時、きな子はぐったりとその場に倒れてしまう。晴二朗は、きな子の所に駆け寄り、きな子を病院に連れて行くために急いで車に乗せる。杏子は、試験のことに精いっぱいで、きな子の体調まで気付かなかったのだ。立ちつくして一人見送る杏子・・・。

病院から戻ってきたきな子に、杏子は、そっと近寄った。横たわりながらも嬉しそうに尻尾をふるきな子。杏子はぎゅっと、きな子を抱きしめた。
「きな子、私な、子供のころからずっと訓練士になりたかったん。・・・私の夢に勝手に巻き込んでしもたな・・・ごめんな。警察犬にする、言わんかったら、厳しい訓練なんかせんで良かったのに・・・しんどかったやろ・・・」

ある日、杏子は晴二朗に、辞めることを告げる。きな子はみんなに愛されて生きた方が幸せだ。どんなに頑張っても、努力しても出来ないものは出来ないのだ・・・。詩子、新奈、圭太が見守る中、きな子に別れを告げる杏子。訓練所を後にする杏子の背中にきな子の悲しげな声がいつまでも響く。後から後から涙が溢れ出す杏子。

きな子と離れて暮らす日々。生きる道さえも失いかけた頃、ある事件が起こる。きな子と杏子は再び夢を取り戻すことが出来るのだろうか?